借地上の老朽建物の建替えが認められた事例(借地借家法第17条第2項・増改築許可申立事件) |不動産トラブルを弁護士に相談【川崎合同法律事務所】

借地上の老朽建物の建替えが認められた事例(借地借家法第17条第2項・増改築許可申立事件)

1. 事案の概要とご依頼の背景

1-1. 長期間継続する借地契約と建物の老朽化

本件は、関東圏の住宅地にある土地に関する借地契約を巡り、借地人である申立人(ご依頼者様)が、建替えを計画したところ、地主との協議が難航したため、裁判所に「増改築許可申立て」を行った事例です。

この借地契約は、50年以上にわたり継続する非常に古いものであり、当初は口頭で成立し、その後に書面化されました。当初建築された木造建物は長年の使用により著しく老朽化し、建物の耐久性や耐火性に懸念が生じていました。また、給水管の老朽化による赤水発生など、生活インフラ上の問題も顕在化していました。

申立人は、相続によりこの借地権と建物を承継し、自己の居住用として安全かつ快適に利用を継続するため、既存建物を解体し、耐久性・耐火性に優れた新しい構造の建物を新築することを計画されました。

1-2. 地主側の不当な要求と法的手段への移行

申立人は建替え計画の際、借地借家法に基づき地主である相手方へ承諾を求めましたが、相手方は承諾の交換条件として、更新料の支払いの約定や、地代の値上げを含む、新たな借地契約への切り替えを要求してきました。

当事務所は、過去に更新料の支払実績も約定もないことを根拠に交渉を試みましたが、相手方は法的な義務がない事項を含めて自らの主張を押し通そうとしました。また、交渉の過程で、申立人宅へ通じる給水管の老朽化による緊急の入替工事が必要となった際も、相手方は建替え問題を理由に工事承諾を拒否しました。

ライフラインに関わる切実な問題にも非協力的な姿勢を貫いたことから、当事務所は話し合いによる解決は不可能と判断し、借地人の正当な権利を実現するため、借地借家法第17条第2項に基づく増改築許可申立を裁判所に提起するに至りました。

2. 裁判における主な争点と相手方の主張

増改築許可申立事件では、建替えの「必要性・相当性」と、許可による地主側の「不利益」をどう調整するかが主な争点となります。

2-1. 建替えの阻止を目的とした地主側の主張

相手方(地主)は、本件増改築の許可は不相当であるとして、主に以下の点を主張してきました。

  • 過去のトラブルの存在: 先代借地人による増改築が承諾を得ていない「無断増改築」であったことや、借地人の家族による近隣住民とのトラブル、虚偽の説明があったことを主張。
  • 将来的な不利益: 次回契約期間満了時に更新拒絶をする意向であるため、今回の建替えを許可することで、朽廃による借地権消滅の機会が失われるという不利益が生じることを主張。また、建替え工事による隣地への影響(家屋破壊の懸念)といった抽象的な不利益も訴えました。
  • 賃料改定額の主張: 仮に許可するとしても、地主側の不利益が大きいとして、鑑定委員会の試算額の中でも最も高額な月額約13000円に改定すべきだと主張しました。

これらの主張は、交渉決裂に至った感情的な背景に基づくものが多く、法的に建替えを不相当とさせるに足るか否かが大きな論点となりました。

3. 当事務所の主張・活動の核心

本件の解決において当事務所が最も重視したのは、「建替え計画の客観的な合理性・相当性の立証」「相手方の感情的な主張に対する法的・客観的な反論」です。

3-1. 鑑定委員会の選任と客観的根拠の確保

裁判所は当事務所の求めに応じ、不動産鑑定士等から構成される鑑定委員会を選任しました。提出された鑑定意見(本件鑑定意見)は、以下のとおり、当事務所の主張を客観的に裏付けるものでした。

  1. 建替えの相当性: 本件増改築は、その規模、構造、敷地の面積からして「本件土地の通常の利用上相当」であり、隣地への悪影響も認められない。
  2. 財産上の給付(承諾料): 増改築を許可する場合、申立人が相手方に対して数十万円台の財産上の給付をする必要がある(更地価格の数%が相当)。
  3. 地代の改定: 改定後の地代は月額1万円台の適正額が相当である。

3-2. 相手方主張に対する法的論理構築

当事務所は、相手方の主張を全面的に排斥するため、以下の論理で反論を展開しました。

  • 継続した賃貸借関係の重み: 相手方が主張する過去のトラブルや虚偽説明が仮にあったとしても、それらを理由に賃貸借契約を解除することなく現在まで契約を継続してきた事実に照らせば、それらの事情は建替えの許可を不相当とするほどの重大なものではないと強く主張。
  • 不利益の償い: 建替えによる地主の不利益(朽廃機会の喪失)は、客観的な鑑定に基づいた財産上の給付(承諾料)によって十分に償うことが可能であり、建替えを認めない理由にはならないと主張。

4. 解決結果(裁判所の決定)

裁判所は、当事務所の主張および鑑定委員会の鑑定意見を全面的に採用し、申立人の増改築を許可する決定を下しました。

4-1. 主文(決定の概要)

  1. 増改築の許可:
    申立人が、決定確定後一定期間内に、相手方に対し、金数十万円台の財産上の給付を支払うことを条件として、既存建物の取り壊し及び新築予定建物の建築を許可する。
  2. 地代の改定:
    賃貸借契約の賃料を、許可の効力が生じた日の属する月の翌月1日から、月額1万円台の適正額に改定する。
  3. 手続費用:
    手続費用は各自の負担とする。

4-2. 裁判所の判断理由の要旨

裁判所は、以下の理由に基づき、相手方の不許可事由の主張をことごとく退け、申立人の増改築を許可しました。

  • 建替えの相当性: 本件増改築は、土地の「通常の利用上相当」であり、不許可とする客観的な事情は認められない。
  • 不許可事由の否定: 過去のトラブルや更新拒絶の意向は、「本件賃貸借契約が解約されることなく現在まで継続してきた」という重い事実に照らせば、増改築の許可を不相当とするまでの事情とは評価できない。
  • 不利益の償い: 地主が被る不利益は、更地価格の数%にあたる財産上の給付によって十分に償われ、これをもって償うことができない甚大な不利益が生じるとは認められない。

5. 本件解決のポイントと弁護士の視点

5-1. 感情的な対立を排した客観的な「鑑定意見」の決定的な重み

本件の最大の成功要因は、地主側が主張した感情的・属人的な主張を裁判所が完全に排斥し、客観的な不動産鑑定意見に基づき法的判断を下した点にあります。

借地契約を巡る紛争では、当事者間の感情的な対立が法的な論点を覆い隠してしまうことが少なくありません。しかし、裁判所の手続である増改築許可申立では、鑑定委員会という第三者機関が介入し、建替えの**「技術的・経済的合理性」「承諾料の適正額」「新地代の適正額」という客観的な根拠を提示します。

裁判所は、この客観的な鑑定意見を判断の基礎とし、地主側の不許可事由の主張を退けました。これは、感情論ではなく、法的な枠組みの中で客観的な証拠をもって争うことの重要性を改めて示すものです。

5-2. 借地借家法第17条第2項の適切な活用による権利の実現

地主との間で承諾料や新地代をめぐる合意が困難な場合、借地人は老朽建物の建替えを断念せざるを得ない状況に陥りがちです。

借地借家法第17条第2項は、このような場合に「裁判所が地主に代わって増改築を許可する」という、借地人の権利を実現するための強力な手続です。本件は、この手続を適切に活用することで、地主側の不当な要求を排除し、申立人の正当な権利である老朽建物の建替えを実現に導いた成功事例と言えます。建替えの計画が土地の通常の利用上相当であれば、地主の不当な拒否によって建替えを諦める必要はありません。

老朽化した借地上の建物の建替えや、地代・更新料をめぐる問題でお悩みの方は、ぜひ一度、当事務所にご相談ください。客観的な資料と緻密な法的構成により、最善の解決を目指します。

 

弁護士 川岸卓哉

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