賃貸物件で家族が自死した場合、遺族はどうしたら良いの? |不動産トラブルを弁護士に相談【川崎合同法律事務所】

賃貸物件で家族が自死した場合、遺族はどうしたら良いの?

はじめに

私は、弁護士登録当初から、自死遺族支援弁護団に所属し、自死に関わる多くのご相談を頂いています。不動産に関わるご相談では、特に賃貸物件で親族が自死された事案についてのご相談をお受けすることが多いです。

告知について

ご相談の中で多い相談は、まず、借主(故人)が借りていた部屋の中で自死された場合、大家さんに伝えなければならないか、というご相談です。借主の遺族に告知義務があるかについては、法律上明文化されたものはありませんが、仮に、告知しないことによって、大家さんが何も知らずに新しい借主に部屋を貸してしまった場合、新しく部屋を借りた借主から、大家さんが損害賠償請求を受ける可能性があります。その場合には、大家さんから、遺族が損害賠償請求を受ける可能性があり、その金額は、告知した場合に比べても大きくなる可能性があります(新しい借主の引っ越し代等が上乗せされるため)。そのため、告知しないという判断はお薦めできないと考えます。
ところで、死亡の確認が病院でされた場合には、そもそも亡くなったのは借りていた部屋の中ではなく病院であるから、大家さんに告知する必要はないのではないかとのご質問を受けることがあります。しかし、発見が早かった場合に、救急車で運ばれて、死亡の確認は病院でされることは一般的と思われますので、死亡の確認が病院でされたからといって告知する必要がないと考えることは難しいと思われます。

遺族が請求されるものについて

次にご相談されることが多いのは、大家さんからいくら請求されますか、というご相談です。一般的に請求されることが多いのは、原状回復費用と将来賃料の減収分です。
原状回復費用とは、自死によって汚損等が生じた場合の修繕費用です。自死によって汚損が生じた場所だけでなく賃貸物件全体のリフォーム代を請求される場合や、もともと設置されていた設備以上のグレードアップした設備の費用を請求されることがありますが、基本的には、自死によって汚損が生じた場所のみ修繕すれば良いと考えられますし、グレードアップした設備分を負担する理由はありませんから、大家さんからこのような請求があった場合にはお断りしても良いと考えられます。
将来賃料の減収分とは、自死を告知することによって現在の賃料では新たな借主が見つかりにくくなる場合があることから、賃料を下げて借主を募集することになる場合に、その減収分についての補填を遺族に求めるものです。判例では長くても2~3年分に限られておりますので、余りに長期間分の将来賃料を請求された場合には、減額交渉が可能と考えられます。また仮に上下左右の部屋の賃料の減収分等を請求された場合にも、お断りしても良いと考えられます。
なお、例えば、屋上や外階段から投身自殺された場合等、共用部分で亡くなられた場合には、部屋の中で亡くなられた場合よりも損害額の予測が立ちにくい場合があります。まず、お借りしていた部屋の中で亡くなられたのでないのですから、その部屋自体の賃料を減額する必要はありませんので、その部屋自体の将来賃料の減収分を支払う必要はないと考えられます。一方で、落下された場所が、どこかの部屋の玄関前であった等という場合に、その部屋の借主が出て行ってしまったら自死との因果関係が認められてしまう可能性もありますし、その部屋の将来賃料にも影響を及ぼす可能性もあります。落下された場所が建物の通路部分であった場合等では、場合によってはその通路を通ることになる複数の部屋の賃料にも影響を及ぼす可能性も考えられます。従って、共用部分で自死された場合には、大家さんから全く請求がない可能性がある一方、部屋の中で自死された場合とは違った損害賠償請求がきてしまう可能性もあります。

相続放棄について

仮に自死された故人自身が借主で財産がなかった場合には、相続放棄をご検討いただくことがあります。相続放棄をした場合には、遺族は自死された故人が負う損害賠償責任を遺族が相続しないことになりますので、上記の原状回復費用や将来賃料の減収分を大家さんにお支払いする義務がなくなります。相続放棄は、遺族が自己のための相続開始を知ったとき(通常は亡くなったことを知った時)から3か月以内に家庭裁判所に申し立てる必要があります。なお、借主(賃貸借契約の契約者)が故人ではなく遺族であったり、遺族が保証人であったりした場合には、遺族ご自身が賠償責任を負いますので、相続放棄によっては責任を免れません。また、故人の預金を下ろすなど、遺産の全部または一部を処分すると、単純承認となって相続放棄ができなくなる可能性がありますので、ご注意ください。相続放棄をすると、故人のマイナスの財産を相続する必要がなくなる一方、故人のプラスの財産も受け取れなくなりますので、もし、故人にある程度の財産がある場合には、相続放棄をするか否かは慎重にご検討ください。

川崎合同法律事務所 弁護士 小野通子

この記事と関連するコラム

関連記事はありません

不動産トラブル解決には「実績」と「交渉力」。川崎合同法律事務所へご相談ください。

お電話はこちら ご予約はこちら